台湾に旅行すると気づくのが信仰の身近さ。どこに行っても廟があり、人々の生活の中に祈るという行為が根づいています。
多くの廟では、国籍や民族に関係なく、誰でも入って祈ることができ、最近では英語や日本語でお祈りの仕方を説明している場所も少なくありません。
台湾の文化についてもう一歩ディープに学びたい方向けに、台湾の「信仰」、特に道教や民族信仰に焦点を当てて、ご紹介していきます。
台湾人の宗教観 ー「無宗教」と信仰心が共存する社会
台湾の人に「信仰する宗教は何ですか?」と聞くと、多くの人が「無宗教」「仏教」「道教」などと答えます。
このうち、「無宗教」と自認する人は増えていると言われていますが、2024年の調査によって、宗教に無所属だと回答していても半数以上が先祖のためにお供物をしていたり、40%以上の人が神や目に見えない存在を信じていることがわかりました。
また、成人全体の半数以上が、山や川、木々には独自の魂が宿っていると信じているそうです。

自分では無宗教だと捉えていても、先祖崇拝の儀式に参加していたり、自然のものに精霊や魂が宿っていると考えたりするのは日本人の傾向とも重なっていますね。
台湾宗教の多層性 ―民間信仰を基盤とする多神・多宗教社会
台湾の宗教的状況を一言で表現すると、民間信仰の上に様々な宗教が乗っているイメージがピッタリです。
台湾の民間信仰には、媽祖や関公、灶神(かまど神)、土地公などの神がいます。媽祖や関公は、歴史上に実在した人物が崇められて神となり、土地公は、石や木に対する自然崇拝が神になったものです。
このように、台湾では様々な形、そして対象への崇拝が、多神信仰の土壌となりました。
実際、台湾の伝統的な家では、「神明彩」と呼ばれる絵が掛けられており、その絵の中心に観世音菩薩が、周りに先ほど紹介した神々が描かれています。
また、民間信仰が土壌としてあることで、台湾の人々にとって「神」という存在や「祈る」という行為は身近な様子です。
例えば、神様の呼び方。観世音菩薩は、「観音媽(観音母さん)」という愛称で呼ばれ、親しまれています。
漢人たちのもたらした仏教や道教、日本人や西洋人がもたらした神道やキリスト教が受け入れられ、今なお残っているのは、むしろ民間信仰がすでに根付いていたからこそなのかもしれません。

同時に、台湾の人々の「多様性」に対する受容と耐性も、台湾の宗教状況に影響を与えたのでしょう。
イスラム教やヒンドゥー教徒による信仰がみられるのも、仏教と道教が混在し、一つの寺社仏閣に異なる神様を祀っているのも、台湾の特徴であると考えます。
宗教という観点においても、複雑な要素が絡み合い、重なり合った台湾の歴史と文化が感じられます。
台湾における「寺廟」の役割 ―生活空間に根づく祈りの場
神様を祀る場所を台湾では一般的に「廟(ミャオ)」と言います。一方、比較的仏教色が強い施設には「寺(スー)」という漢字も使われます。前述したように、台湾では道教や仏教の混合がみられるため、両者を合わせて「寺廟(スミャオ)」と呼ばれることもあります。
この「廟」ですが、台湾全土でなんと12,000以上あると言われています。自然や都市景観の中で違和感なく存在しているその姿は、台湾の人々にとって、いかに廟が日常の一部となっているかを物語ります。
どの廟にも主神がおり、台北で有名な龍山寺の主神は観世音菩薩です。
一般的に、廟には主神の神様の他にも色々な神様がいるため、参拝者は回りながら各神様に挨拶をします。
参拝にあたっては、いくつかの心構えがあります。
例えば、廟やお寺の中に入る時、一段床が高くなっていることがしばしばあります。水の侵入を防ぎ、かつ神聖な場所としての結界を張っているため、この敷居は踏まないようにします。
そのほか、廟やお寺の詳細は、台湾を代表する廟や寺を紹介した記事にて↓
台湾最強のパワースポット:龍山寺で運気アップ!フルで満喫できる情報
台北のパワースポット巡り|縁結び・商売繁盛・健康・学業成就の神様を訪ねて
台湾の信仰実践 ―祈願・供物・神様との関係性
日本と台湾では「神様」との付き合い方にはっきりとした違いがあると言われています。
台湾では、何か神様にお願いをするとき、そこには「取り引き」という考え方があります。
つまり、自分の願いや望みを伝えて終わりではなく、お供物や線香をまずはあげて、願いを唱えた後に願解きの約束をします。そして、実際に願いが叶った後には、神様へお礼をしに行きます。
願い事をするときに、氏名や住所といった情報を心の中や小さな声で唱えてから願い事を伝えるのも、日本との違いです。
台湾の人々によると、これは自分がどこの誰なのか神様に知ってもらうために欠かせない行為だということです。
神々に声を届けるために、台湾の人々は「道具」を使います。
その一つが線香です。人々の願いを伝えるものとして、台湾では「手紙の香」という意味をもつ「信香(シンシャン)」とも呼ばれていたそうです。
また、金紙、銀紙、紙銭といった貨幣も神や死者への捧げ物の象徴となっており、参拝の際に燃やされます。
一方、最近では環境保全の観点からお香や金紙の使い方が再検討されています。
神様からの確かな返答がほしいときには、「筊杯(ポエ)」というものを使います。これを投げて、自分の願い事に対する神様の意向を確認したり、おみくじを引く許可をもらったりします。

最後に、語呂合わせにも注目です。
中国語圏では、発音するときの「音」に日本語以上に意味が込められます。
例えば、学問の神様として知られる文昌帝君にはセロリを供えることが多いですが、これはセロリを表す台湾華語の「芹菜」の「芹」が、勤勉を示す「勤」と同音であるからです。
同様に、縁結びの神様である月下老人には、ナツメを供えることが有名です。そこにも、ナツメの「紅棗」の発音から、「早く結婚相手/幸せが見つかる」という意味が込められています。
エンタメに表象される台湾の信仰 ―恋愛映画とホラーから
台湾の土着信仰や自然崇拝は、台湾の人々の中に深く根づいています。そのような台湾ならではの信仰心を上手く活用しているのが、台湾のエンタメコンテンツです。
まず、紹介したい作品が「赤い糸 輪廻のひみつ」。
この映画は、命を落とした主人公たちが「月老(ユエラオ)」として現世の人々の縁結びをしていくなかでの出来事や葛藤を描いています。

引用:公式サイト
ファンタジー要素とロマンス要素のあるこの映画は、非常に見やすく、日本でも異例のロングラン上映となりました。
この映画のキーワードは「月老」ですが、これは月下老人の略称です。
月下老人は、台湾で縁結びの神様として非常に慕われている存在で、月下老人が人々を赤い糸で結ぶことで、恋愛や結婚が成就すると信じられています。
映画では、月老の法則として、2つのルールが設定されています。「ジェンダーもセクシュアリティも何物も愛を妨げない」こと、そして「赤い糸で結ばれると、愛が実るまで命が尽きることはない」こと。
この2つの法則から、この映画は、台湾の人々のもつ月下老人への信仰心にしっかりと寄り添いながら、現代台湾において重要な多様性の尊重や、愛・命という大きなテーマに焦点を置いていることが読み取れます。
続いて紹介するのが、台湾ホラーです。
台湾の人々の中にある信仰心を、ストーリーの中に上手く組み入れることで、鑑賞すると、自然と心の底から恐怖を感じてしまう作品がいくつもあります。
台湾ホラーは、台湾のエンタメコンテンツの中でもとりわけ世界から注目されているジャンルです。
カメラワークもストーリーも高く評価されており、言語や地域問わず、世界中のホラーファンをトリコにしています。
台湾ホラーのストーリーは大きく3つに分けることができます。現代の問題を題材にしたもの、台湾の歴史を題材にしたもの、そして台湾の信仰を題材にしたもの。
土着信仰が発展したことで台湾の人々の心の中に残った自然や目に見えないものに対する畏怖が、ホラー要素として映画に取り入れられることで、自ずと主人公に共感し、拭えない恐怖を感じるのです。
ストーリーを読むだけでもゾッとするので、ここでは具体的な作品紹介は控えますが、台湾の信仰心とホラーの結びつきを知りたい人におすすめの映画は「紅い服の少女」や「呪詛」です。
まとめ ―台湾の信仰文化が示す価値観とは
台湾の信仰文化を見ていくと、「宗教を信じているかどうか」という二分法では捉えきれない、人々の価値観が浮かび上がってきます。
無宗教と自認しながらも、先祖を敬い、神や自然の存在に畏敬の念を抱く姿勢は、台湾社会においてごく自然なものとして受け入れられています。これは、日本人の考え方とも重なる部分があり、皆さんも理解できるのではないでしょうか。
民間信仰を土壌とし、道教や仏教、さらには外来宗教までもが重なり合ってきた台湾の信仰は、多様性を受け入れながら共存し、台湾独自の宗教環境をつくりあげました。寺廟や参拝が、台湾の人々にとって日常の一部、対話の一つと捉えられていることも特徴的です。
台湾の人々のこうした信仰観は、映画やホラーといったエンタメ作品にも反映されており、現代の台湾文化を理解するうえでも、非常に重要な手がかりとなっています。
ぜひ皆さんも実際に、寺廟の訪問や映画鑑賞を通して、台湾の人々の暮らし方や価値観にも結びつく、「信仰」という文化に触れてみてほしいです。
参考
台湾のお寺参りにまつわる10個の疑問(台北市政府観光伝播局)
台湾人が日々拝むもの 民間信仰における多神教の世界(台灣光華雜誌)
神様との付き合い方は「取り引き」重視?(國學院大學メディア)
東アジア社会における宗教性と精神性(Pew Research Center)
記事執筆:シャンシャン
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筆者プロフィール

シャンシャン
美麗!台湾学生ライター
幼少期から中華圏に縁があり、大学で中国語を専攻、台湾で半年間インターンシップを。
台湾の「飾らない」一面が好きで、宜蘭を10時間ひたすら探索したり、オフシーズンの緑島を自転車で回ったり…。
現在は日本で楽しめる台湾コンテンツやグルメを日々探し中。
