WBC台湾代表「チャイニーズタイペイ」の呼称と ”国ならざる国”としての台湾の存在戦略

カルチャー

今年2026年、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)、台湾代表チームは日本代表と同じグループCに入り、グループステージが日台戦が実現する。
日台戦には独特の空気がある。
日本は台湾チームを歓迎し、台湾代表も胸を借りる感覚で王者に挑戦する…。
アジアの代表同士では珍しい友好ムードが日台戦にはある。
その裏で台湾代表の呼称も話題になっている。

ーチャイニーズタイペイ。

台湾代表として戦っているのに、なぜ「台湾」と呼ばれないのか。
ここでは日台ハーフで、台湾での兵役経験もある筆者が、台湾人の部分から、「チャイニーズタイペイ」という呼称について説明していこうと思う。
そこには国ならざる我が国が国際社会で存在し続けるための努力と妥協、そして私たち台湾人の価値観が投影されていた。

台湾ではどのように受け止められているのか

台湾人のチャイニーズタイペイ呼称に対する受け止め方は複雑である。

日本では最近、台湾人はチャイニーズタイペイという呼称を嫌っており、スポーツの代表においてもチャイニーズタイペイではなく、台湾と呼称すべきだという言説を見かけるようになった。確かに台湾人もチャイニーズタイペイは積極的に使っていない。
WBCやオリンピックなどの国際大会についてはやむなく使用しているが、野球などは台湾主催の交流試合などIOC・WBCI等がチャイニーズタイペイ名称を義務付けていない大会では「台湾」として異なるユニフォームを使っている。

チャイニーズタイペイとしてのユニフォーム
https://news.ttv.com.tw/news/11503060026800N

宮崎での練習試合時のユニフォーム「Team Taiwan」の愛称で知られる黒の台湾ユニフォームを着ている
https://x.gd/8uKvG

ただ台湾人はチャイニーズタイペイの呼称に対して完全に反感受け入れられないかと言われれば、もう少し微妙な立場であると言える。

 

チャイニーズタイペイは、中国語で「中華台北」と表記される。

台湾では台湾の代表チームを「台湾代表」と呼ぶこともあるが、用語統一しているわけではなく、しばしば「中華隊(中華チーム)」という呼称と混用している。筆者も台湾の代表選手のインタビューを翻訳したことがあるが、その際も彼らは自らを「中華隊」と呼んでいた。

「中華隊」は「侍JAPAN」やラグビーニュージーランド代表の「オールブラックス」などのように、台湾代表チームの愛称として市民権をえている。
つまり、「中華台北」という呼称を忌み嫌っているという人ももちろんいるが、それは一面にすぎなく、我々台湾人自身が「中華隊」という愛称を採用し、日常的に使っているのだ。

台湾テレビ局のWBC中継。オーストラリア戦では「中華」と使われていた。
同じ局の日本戦。この日は「台湾」と表記されている。同じ局で統一されていないのも問題だが。

ではなぜ中国の一部であるかのようなチャイニーズタイペイの呼称を一部愛称として使っているのか。
その鍵は「中華台北」が「中国」ではなく「中華」と表記しているところにある。
「中華」という言葉自体は文献を紐解くと4,000年以上前に原点が見つかる言葉であるが、初めて国名に採用したのは現在台湾を統治している中華民国である。
中華民国自体が「中華」という言葉にアイデンティティを持っていた。台湾の国営の郵便局は中華郵局であるし、初の電信会社は中華電信、初の航空会社は中華航空である。
我々は中国ではないが、中華ではある。という考え方は許容できるという台湾人は少なくないのではないかと感じる。

なお、「中華台北」として呼ばれることはほぼない。「台北」がつくことにより、国というより都市の代表のように見えてしまうし、そもそも台湾には台北以外の街もあるので、”我らが代表”といった感覚がなくなるのだろう。
中華隊とはそんな台湾の複雑なアイデンティティの上に、かろうじて存在した愛称なのである。

しかし問題はこの中華隊という呼称も翻訳してしまうとチャイニーズタイペイになってしまうことだ。
正直に言って、この英語訳は微妙だ。中国と中華の微妙なニュアンスが英訳できず、「中国の台北」のような印象を与える。になってしまう。

”名を捨て 実を取る”台湾の存在戦略

かくも複雑で、英訳するととたんに崩れてしまう「中華隊」という綱渡りの上に存在している呼称。
そこには台湾という国ならざる国の努力と妥協があった。

台湾を国として扱う際に一つ問題となることがある。「そもそも台湾の正式な国名はなんなのか問題」である。
”台湾という国”は存在しない。唯一合法的な国名は「中華民国」である。しかし、中華民国は過去の行いから、台湾で中華民国の名に反感を持つ人も一定数いることは間違いない。
過去に「台湾共和国」や「中華台湾民主国」にする運動(台湾正名運動)もあったが、国名を変えることは叶わなかった。

最終的に台湾が選択肢したのは、自らの呼称を”棚上げ”することだった。
国号は「中華民国」を使いながら、自らを「台湾人」と名乗る。
その精神性を象徴的な一文が頼清徳総統の就任演説にある。
『中華民国、中華民国台湾、或いは台湾のいずれであっても、これらは私たち、または国際的な友人が私たちの国を呼ぶ名前であり、それらはすべて同じ響きを持っています。』(台湾新聞より抜粋:https://taiwannews.jp/2024/05/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%AA%9E%E8%B3%B4%E6%B8%85%E5%BE%B3%E7%B7%8F%E7%B5%B1%E5%B0%B1%E4%BB%BB%E6%BC%94%E8%AA%AC%E5%85%A8%E6%96%87/)

国際的な舞台では、台湾は「台湾」として存在することが許されない。
それでも「台湾」を押し出そうとしようものなら、たちまちにWBCやオリンピックといった舞台に参加する資格を失う。自らのアイデンティティが、国際社会でセンシティブワードとして扱われる…。我々台湾人はそんな屈辱を親子三代に渡って味わい続けている。

そんな中で、台湾は国としての名前がどうであるという”名”よりも、国際社会に参加し、存在感を出し続けるという”実”を優先させることを選んだ。これは”名を捨て 実を取る”台湾の生存戦略、いや、”存在戦略”なのだと思う。
『チャイニーズタイペイではなく、台湾で呼ぶべき』その主張は正しいとは思う。日本人がそういった声をあげてくれることにも深く感謝を述べたい。
もしよければ、そこ呼称が台湾が選び取った苦渋の選択の産物であることも付け加えておきたい。


筆者プロフィール

げん

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台湾を愛するあまり、台湾で兵役に行った男。
台北にて、台湾人の母親と日本人の父親の間に生まれる。
日本で小学校から中学校途中まで過ごしたのち、台湾花蓮で中学〜高校卒業までを過ごす。
2022年〜翌年まで台湾にて兵役に服する。
台湾の政治・経済・歴史・軍事などの分野で【手触りの台湾情報】の発信を続ける。

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