台湾生活の先輩 ライター・近藤弥生子さんインタビュー

インタビュー
台湾で妊娠・出産を経験し、ライター・会社代表として社会の最前線でも活躍する台湾暮らしの大先輩・近藤弥生子さんのロングインタビュー。 中国語学習のノウハウや日本と台湾でのビジネスの差、台湾の産後ケアセンター「月子中心」についてまで、貴重な情報をたくさんお届けします。

近藤弥生子さん Yaeko Kondo

草月藤編集有限公司(So Getsu To Editing Co., Ltd.)主宰

1980年福岡生まれ。2011年より台湾台北在住。

現地のデジタルマーケティング企業勤務を経て、2019年3月に草月藤編集有限公司を設立。

日本語・繁体字中国語でのコンテンツ制作ディレクションを行う。

ライター、編集としても活動中。

プライベートでは二児の母。台湾での出産・育児、シングルマザー・再婚経験や台湾での生活を綴ったブログ「心跳台灣」を運営。

台湾に来たきっかけ

本日はよろしくお願いします。

よろしくお願いします。

 

台湾にいらっしゃったのは、ご結婚がきっかけだったんですよね?

はい、前の夫との結婚がきっかけでした。台湾が好きで移住したというわけではなかったですし、香港と台湾の区別も付いていませんでした。

 

台湾に来た第一印象はいかがでしたか。

南国です。もともとアジアにあんまり興味がなくて、英語圏の方が好きだったんですよ。ヨーロッパや英語圏の方が好きでした。だから、期待も本当はあまりなかったんですよ。

出版社でただがむしゃらに働いていて、寿退社のために仕事を終わらせることに精一杯で、「やっと仕事が終わった〜!」と思ったのが台湾生活のスタートでした。

 

台湾のスローな雰囲気は最初はどう感じましたか?

最初はすごくネガティブでした。スローな時間にも違和感があったし、すぐ妊娠したので、つわりも本当にすごくて。コンビニの茶葉蛋の匂いも苦手で困りました。中国語を習うために師範大学に行っても、何かの匂いがずっとするんです。だからずっと吐いていて…。

 

食べ物とか人の雰囲気とか優しさとかじゃなくて、まず匂いだったんですね。

そうです。ずっと家で寝ていたので、中国語も進歩しないし、友達もできないし。

 

そんなネガティブな気持ちが今のポジティブな気持ちになったのはいつからでしたか。

子供を産んで、会社で働き始めてからです。社会とつながりができると、やっぱり気持ちが変わりました。

ただ、今でも「台湾大好き!」というわけではなくて、どちらかというとフラットな気持ちです。

 

デジタルマーケティングの会社で働いていらっしゃったと思うのですが、働くにあたっての不便はありましたか?

プロデューサーという立場にいながらも、最初は言葉ができなかったので、常に周りに迷惑をかけていました。

一度、期日になってもアウトプットが出て来なかったことがあるんです。担当者にどうしたのか聞いてみると、「やえさんの中国語が分からなかったからやっていません」と言われてめちゃめちゃ悔しかったこともあります。

すぐにホワイトボードに書いて説明し直しましたが、すごくショックでした。

 

日本で働いていたら絶対に直面しない壁ですよね。

そう思います。でも相手のせいにしていてもアウトプットが出てくるわけではないので、いつも「今回の失敗を二度と繰り返さないようにするにはどうしたら良いか」を考えて、前しか見ないようにしています。

台湾での妊娠・出産

台湾で暮らし始めて8年になる近藤さん、特に妊娠から出産までを台湾で経験するというのは、想像を超える苦労があったことかと思います。

台湾での出産は、日本と違う点がありますか?

まず、台湾で出産を決めるに当たって、日本で産みたかったのですが震災があって、中国語がまったくできない中で台湾での出産になったという背景がありました。

情報収集にすごく困って、それでも一生懸命調べたことを、せっかく調べたんだからシェアしようと思って始めたのがブログなんですよ。

 

ああ、近藤さんのブログ心跳台灣はその時に始まったのですね。

他の人も困るだろうから調べたことをそのままブログに載せようと思って始めたのが、だんだん読んでくれる人が増えて行きました。

同じことで困っている人が多く、「助かった」と言ってくださるので、今でも続けています。

 

具体的に出産に関する情報収集はどのようにしていくんですか?

台湾に住んでいる駐在妻の先輩や、現地妻の先輩方とお会いしてコツコツと話を聞いていきました。

オススメの病院、色々なシチュエーションで気をつけることそれに予防接種についてなど、たくさん教わりました。結局出産は台安病院を選びました。

 

月子という中華圏特有の産後ケアについて聞いたのですが、どのようなものなのでしょう?

台湾のお母さんは、産後に「月子中心」という産院とはまた別の産後ケアセンターで、1ヶ月くらい、漢方食を中心に月子のしきたりに従って体を休めます。

昔は家庭で自分のお母さんや義理のお母さんにしてもらう場合も多かったのですが、今は核家族化が進んでいるので、「月子中心」のように、ビジネスとして月子を提供するところも増えています。

近藤さんが滞在していた月子中心「小青田產後護理之家」のお部屋。(写真提供:心跳台灣

 

月子中心って、具体的にどんなところなのでしょうか?

一日三食+おやつが二回提供されて、子供は24時間体制で資格を持った看護師さんが見てくれます。

産婦はただただ休息します。

中華圏の考え方だと、出産は最大のデトックスだそうです。生理はプチデトックスで、出産は全ての悪いものを出せる最大のデトックスです。

だから全て出したところに良いものを入れよう、という考えです。

出産1週間目は排毒といって毒を出す期間で、2週間目と3週間目に栄養を補います。

月子をきちんと行えば更年期が楽になると言われているんですよ。

月子中心での晩御飯の一例。母乳に良いお茶や、おやつのスープつき。(写真提供:心跳台灣

 

すごい。じゃあ、具体的にはご飯食べる以外何をしてるんですか?

ひたすら寝ています。睡眠が取れないと体が回復しないので、母乳をあげるのも看護師さんが手伝ってくれますし、赤ちゃんのお世話の大変なところを全部やってくれます。

授乳の時は、「赤ちゃんがお腹すかせてるけどどうする?」って部屋に内線がかかって来るんです。で、「今は授乳できます」と言うと部屋まで連れてきてくれます。

授乳したら新生児室へ連れて帰ってもらえますし、赤ちゃんと一緒に居たければそうさせてもらうこともできます。

 

台湾は、社会全体でお母さんとお子さんを守っていこうという意識がすごく強いんですね。

そうなんですよ。

How to Taiwanの田中伶さんも『子連れ台湾』という本を出版されていますが、日本だと子連れだと肩身が狭く感じることが多いようですね。台湾はどこでも「社会に子供がいるのは当たり前、子は社会の宝」といった感じです。ミシュラン星付きレストランでも、子供連れを歓迎してくれるんですよ。

だから、子連れの友人たちが台湾に遊びに来ると、すごく幸せだとよく言ってもらえます。

ベビーカーが嫌がられたりすることもまずありません。

台湾の好きなところ・不便なところ



台湾の生活についてもっと聞かせてください。

事前のアンケートシートで、「台湾は合理的」と回答されていますが。

そうですね。例えば、バスの乗車料金を現金で支払う時、投入口にそもそもお釣りが出てくる機能がなかったりとか。だから、貨幣詰まりを起こして故障、みたいなことがないんです。小銭がない人は、他の乗客から借りるか、お釣りなしでコインを投入するしかない。

シンプルで、余計な機能がついていないんですね。そういうところが良いなと思って。

 

フレキシビリティみたいなところも良いですよね。ビジネスにしても、慎重な日本とは反対で、まずやってみてダメかどうか判断するという。

そうですね。ものすごいスピードで、小さい失敗を繰り返していく人たちだなと思います。

例えば日本でお店を持つとして、上手くいかなくて閉店してしまったとするとすごくネガティブに捉えられるじゃないですか。

台湾って全然ネガティブじゃないんです。大切なのはその人の一生の中でどれだけ楽しんだのかだから、一回や二回お店を潰したといった小さいことより、むしろお店を開いたという行動を賞賛する傾向があります。

こういうところは、とても好きです。

 

台湾で生活していて不便なところはありますか?気候などはどうでしょうか。

正直、ないです。

きっとあるんだと思うのですが、不便なところはどこにだってあると思います。

日本の長野の白馬に住んでいた時は寒くて水道の凍結に気を使ったりしていたので、その不便に比べれば。

あ、湿度が高くて革製品がカビるのはすごく悲しいですね。

 

水回りの設備はどうですか?僕は湯船と追い炊きがないのは無理なのですが…。

すっかり慣れてしまいましたね。家には一応湯船がありますが、追い炊き機能はないですね。

 

台湾の病院などの設備はどうですか?

病院については最高だと思います。タクシーも安いので、すぐに乗って救急に行けますし。

21時など、夜遅くまで開いているのも良いです。もちろん大きい病院は終日開いていますが、街の小さい診療所などは、午前中と夜だけ開いている場合も多いです。そんなところも合理的だと思います。

なるほど。診療費も高くないんでしたっけ。

台湾の健康保険証「健保卡」があると、かなり安いです。条件を満たしていて、申請すれば日本人でも作れますよ。いわゆる一般的な西方医学だけでなく、漢方などを処方する中医も使える点もすごくいいです。

台湾のあるある

台湾のあるあるについて聞かせてください。

台風休みなどはどう思いますか?問答無用で会社が休みになりますよね。

そうですね、あの制度には最初ものすごく驚きました。

前の会社では、台風休みになった分、スケジュールを巻いて締め切りに間に合わせようとするのは自分だけで、台湾人の同僚たちは皆、そのままなんとなく仕事を進めていることに衝撃を受けました。

台湾ののんびりした雰囲気はいいところでもあるけれど、最初はちょっとびっくりしました。

そういう台湾人との文化的ギャップについては、子育てしていて本当によかったなと思います。

 

というと?

もし子育てしていなかったら、良くない所ばかり目に入ってしまっていたかもしれないと思うんです。

子育てしていると、台湾の幼稚園や小学校の教育に触れる機会があって。

仕事で、台湾人に企画を任せた時に「方向性を示してもらえないとできない」と言われたことがあったんです。その時は、企画って自由だからこそ面白いのに、どうしてそんなことを言うんだろうと思っていました。

でも、息子の通っていた台湾の幼稚園や小学校を見ていると、例えば絵を描くとかにしても先生の示したお手本通りにできたると褒められていたりするんですよね。「ここは黄色で塗ろうね」とか。

一概には言えませんが、もしこういった教育が一般的なのだとしたら、与えられたミッションを完璧に遂行するのは得意でも、ゼロから自分の頭で作り上げるのは苦手になっても仕方ないなと思いました。

こういった点は、子育てを通して台湾の教育を間近で見たから気が付けたと思います。

中国語学習

「美麗(メイリー)!台湾」のテーマである、中国語学習についてもぜひお伺いしたいです。

私は本当に中国語の学習について語る立場にはいないと思うんですが・・・。台湾に来た時も、ゼロどころかマイナスからのスタートでしたよ。(笑)

師範大学で入学準備をする時に「ポポモフォとピンインどっちで習いたい?」って聞かれても、そもそも何を言われているのかわからない。知らないうちにピンインに決められていました。

会社で働き出した後も、みんなが何を話しているのか聞き取れないまま会議の席に座っていましたよ。

ほぼ実地で、会話の中から学んできたんだと思います。

近藤さんが中国語でインタビューし、日本語で執筆した書籍『+10 テンモア 台湾うまれ、小さな靴下の大きな世界』と『TAIWAN FACE』

 

師範大学に通ったことは役に立ちましたか?

残念ながら、つわりで体調が悪く、学校に行ってもソファーで寝ていたりして、ほとんど活用できなかったと思います。

そのかわり、妊娠や出産に関する台湾の雑誌や、経済誌も好きなので読んでいました。

やっぱり雑誌の中の専門用語がわからないので、カフェで、雑誌とネット辞書を見比べながら何時間もかけて読んだりしていました。

 

中国語学習でやっておいたら良かったなと思うことはありますか?

ポポモフォで学習していたら良かったなと思っています。

台湾だけでなく大陸など中華圏全体で活躍するならピンインで構わないと思いますが、私は台湾を深掘りする仕事をしているので、台湾人が学ぶスタイルで学習したほうが良かったなと思います。

息子の小学校の連絡帳はポポモフォで書いてあるので、読めないんですよね。「ママへのお手紙」もポポモフォで書かれちゃうと、一文字も読めない。(笑)

息子は台湾語もかじっているので、うらやましいです。

 

こうしておくと中国語の上達が早い、といったコツのようなものはありますか?

好きな歌手や映画スターがいる人は習得が早いと思います。好きな映画やドラマを見つけるといいと思います。

 

今後台湾でやりたいことはありますか?

押し付けになってしまわない様には気をつけたいのですが、台湾人にコンテンツ製作を教えて行きたいなと思っています。

日本式のコンテンツの作り方の作り方って、やっぱりしっかりしていていい点がたくさんあると思うので。

前の会社でも、日本式のコンテンツ製作を伝えようとして最初は細かすぎて面倒がられたりしていたのですが、今では感謝してもらえているので、嬉しかったです。

 

今の会社について教えてください!

今の会社は草月藤編集有限公司と言う名前です。日本における編プロみたいな、FacebookやWebサイト、紙など媒体問わず、コンテンツの製作を専門にしている会社です。

私自身が編集・ライターとして現役で活動しながら、台湾で繁体字中国語のコンテンツ製作で質がNo.1と言われるような組織を作りたいです。

台湾のコンテンツ製作業界のクオリティ全体が底上げされるといいなというのと、台湾在住だからこそ伝えられる台湾の今がきっとあるという気持ちがあります。

 

最後に何かコメントがあれば

海外へ出ると、私たちはまず、「日本人」として見られます。それでも、台湾に来て「旅の恥はかき捨て」という概念を持つ日本人が多いのはとても残念なことだなと思います。私自身も気を付けていますが、留学や移住など、こちらに長く留まる方にもぜひ、「日本人代表」というと大げさかもしれませんが、「どうせ海外だから、誰も自分のこと知らないし、ま、いっか」という行動が見られていることを知っておいていただけたらと思います。

私もすっかり台湾化している部分も多いので、自戒を込めて、そう思っています。

例えば、個人的に心がけているのは「引っ越し」。台北市内でもう7回引っ越ししているんですが、毎回必ず「飛ぶ鳥跡を濁さず」ということに気をつけています。小学校の頃だったか、先生から口を酸っぱく言われていた「来た時よりも美しく」という標語がけっこう好きで、そうできるように心がけています。

私は過去の先輩方のおかげで、今台湾でたくさん良くしていただいているので、今度は自分が適当にやったせいで、他の日本人が機会損失することのないように、できることなら機会を増やせるように、という気持ちでいます。

 

ありがとうございました!


インタビュアー・吉田皓一

奈良県出身。防衛大学校を経て慶應義塾大学経済学部卒業後、朝日放送入社。

総合ビジネス局にてテレビ CM の企画・セールスを担当したのち退職。2012 年㈱ジーリーメディアグループ創業。台湾人香港人に特化した日本観光情報サイト「樂吃購(ラーチーゴー)!日本」(2015年 日経優秀製品サービス賞 最優秀賞受賞。月間150万UU超)を運営する。中国語に堪能(漢語水平考試最高級所持)なことから、「台湾で最もFacebookファン数の多い日本人」として台湾にてテレビ番組やCM出演、雑誌コラムの執筆なども行う。日本国内においても、台湾香港インバウンド関連のセミナーに多数登壇。現在は東京と台北を往復しながら、日本の魅力の発信につとめている。

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